がんと免疫のお話し
Cancer and Immunity

がんワクチン療法(がんペプチドワクチン療法)

・ 本来は、無毒化した異物を体内に注射することで異物の目印だけを体内の免疫に覚えさせて、本当に毒をもった異物が侵入してきたときにすぐに対応できるように異物に対する免疫をつけておこうというのがワクチン療法になります。この仕組みと同様に、がんの目印を覚えさせて体内で免疫の力でがんを倒そうというのががんワクチン療法となります。
  がんワクチン療法は、がん細胞で特異的に作られているタンパク質を利用して、患者さん自身の持つ免疫力のうち、がん細胞だけを攻撃する免疫を高める治療法として1990年代から試行錯誤が繰り返されてきたものです。丸山ワクチンや蓮見ワクチンなどの免疫療法と混同される場合がありますが、これらの治療法は無差別に免疫を高める非特異的がん免疫療法であるのに対して、がんワクチン療法は特定の免疫力だけを高める「特異的」がん免疫療法として区別されます。

・ 一般的に「ワクチン療法」とは、インフルエンザワクチンのようにウィルスや細菌などの感染症を予防するためのものです。最近では、子宮頸がん予防ワクチンが広く知られるようになり、がん細胞ができるのを防ぐ形で利用されています。しかし、この子宮頸がんワクチンも、基本的にはヒトパピローマウィルス(HPV)の感染を予防するためのもので、これまで利用されてきた感染症予防ワクチンと同じ原理です。パピローマウィルスの感染が子宮頸がんと関係することは30年位前から知られていました。20年ほど前に、このウィルスの作るタンパク質が、がんを抑える重要な分子の働きを妨害して、がん化を促進することが解明され、ウィルス感染を防ぐことによってがんの発生を抑えるワクチンの開発が進められるようになりました。

・ これまで各種のがんで、がんペプチドワクチン療法の臨床試験が実施されており、また、その変法としてインターロイキン-2や顆粒球単球コロニー刺激因子などの免疫活性化物質との併用、改変ペプチドの開発、ペプチドパルス樹状細胞療法の臨床試験なども行われてきました。標準がん治療法(手術、化学療法、放射線治療)の改良・新規開発に加えて、生体への侵襲が少なく患者が本来有するがん特異的な免疫能を最大限に活用するがんペプチドワクチン慮法が新たながん治療法として実用化されれば、既存の治療法の治療効果を補完し、早期がんの治癒や進行がんの治療成績向上につながると期待されます。ただ、残念ながらがんペプチドワクチン療法における国内外の臨床試験は、これまで期待されたほどの抗腫瘍効果が得られておらず、これまでの臨床研究から得られた知見の科学的検証と、それに基づくがんペプチドワクチン療法の臨床試験デザインや、がんペプチドワクチンそのものの改良が必要となっています。

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