当院のがん治療
Treatment

当院の「多段階免疫調整によるがん治療」のしくみ

第4世代の免疫療法として、樹状細胞療法、がんワクチン療法などが知られています。最近では、CAR-T療法と呼ばれる免疫療法を、厚生労働省が承認しました。これらは、がんを攻撃目標としたリンパ球(Cytotoxic T Lymphocyte: CTL)をいかに体内で誘導し、また機能させるかを目的としたがん治療法です。
健康な人の体内では、免疫細胞ががんを認識して、がんが生まれてもこれを排除します。ところが、がん患者さんの体内では、免疫細胞ががんを異物として認識できず、がんが、免疫のパトロール機構をすり抜けて大きくなっていきます。そのため、がん治療において、当院は、がんを異物として攻撃するCTLを患者さんの体内で誘導することが、最も重要なファクターであると考えています。

CTLを患者さんの体内で誘導するために、

  1. 樹状細胞をがんへ直接注射して、正確かつ生のがんの情報を樹状細胞に認識させること。
    ⇒ 樹状細胞局所療法
  2. 免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブなど)などを使用して、がんがCTLの働きを邪魔できない体内環境を作ること。
    ⇒ 免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブなど)・低用量抗がん剤など
  3. 放射線治療によってがんを弱らせて、樹状細胞が効率的にCTLを誘導できるようにすること。
    ⇒ 放射線治療(連携医療機関での治療)

以上のような工夫を、当院は行っています。
樹状細胞のがん局所への注射、樹状細胞局所療法と免疫チェックポイント阻害剤・低用量抗がん剤・放射線治療の併用、そして患者さんの体調管理をしっかりと行うこと、これが当院が提供する「多段階免疫調整によるがん治療」になります。

段階的に組み合わせて行う治療のため、それぞれの治療によって副作用が発生する場合はありますが、組み合わせ治療による特有の副作用は、当院及び関連クリニックにおいて現時点(2024年2月現在)では確認されておりません。

尚、多段階免疫調整によるがん治療の費用に関しては、患者さんの病状や癌腫などに応じて変わりますので、治療費用についてご相談したい方は、病状が把握できる資料をお持ちの上、ご相談ください。

樹状細胞局所療法のしくみ

免疫細胞の1つである樹状細胞は、がん細胞を食べるリンパ球にがんの"目印"を教え、がん細胞を攻撃するよう指示を出す、「司令官」の役割を果たします。

樹状細胞は、がん細胞を食べるリンパ球にがんの目印を教え、がん細胞を攻撃するよう指示を出す、「司令官」の役割を果たします。

患者さんの血液から単球を取り出し、その単球を元にして専用の細胞加工施設で樹状細胞を製造します。
どのようにがんの特徴を樹状細胞に覚えさせるかが、がん免疫療法にとって重要ですが、当院では、樹状細胞をがんに直接打ち込むことで、樹状細胞にがんの特徴を覚えさせ、膵がん乳がん食道がん胃がんなどにおいてがん特異的な免疫の誘導を試みています。当院はこのがん治療法を「樹状細胞局所療法」と呼んでいます。
また、必要に応じて活性化したリンパ球もがんに直接投与することや点滴することによって、多角的にがんを攻撃します。

免疫チェックポイント阻害剤のしくみ

がんを攻撃する免疫力、すなわちCTLをがん患者さんの体内に樹状細胞局所療法によって誘導したとしても、がん細胞がCTLにブレーキ(抑制)をかけることが多々あります。
そのブレーキを解除してCTLを十分に働かせる薬が、免疫チェックポイント阻害剤(ICI。ニボルマブや、イピリムマブなど)です。一部の免疫チェックポイント阻害剤は、標準がん治療にも既に含まれています。
がん免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤の登場によって、大きく飛躍しました。

免疫チェックポイント阻害剤

がん微小環境のコントロール

がん微小環境

がん組織では,リンパ球や樹状細胞等の免疫細胞が浸潤し、制御性T細胞や線維芽細胞が増殖し,さらに血管新生が誘導され,がん細胞の周囲に特殊な環境を構築します。これは、がん微小環境(上図)と呼ばれています。
がんの増殖・浸潤・転移などはがん細胞の性質のみに規定されるのではなく、周囲組織との相互作用により形成されるがん微小環境に影響されることが明らかになってきました。がん微小環境では、免疫抑制状態を維持するような細胞(Treg、CAF、MDSCなど)が大量に存在するため、CTLなどの免疫細胞は正常に働くことが難しくなります。
がん微小環境の機能を免疫調節薬等によって上手にコントロールし、樹状細胞局所療法や免疫チェックポイント阻害剤によってCTLが働きやすい環境を患者さんのがん組織で構築する治療、これを当院は目指しています。

がん微小環境とは?

がん免疫療法の歴史

 がん免疫療法の歴史は19世紀後半のウィリアム・コーリーによるコーリー毒(死んだ細菌の混合物)をがん患者に投与したことに遡ります。これは細菌により引き起こされる免疫反応をがん治療に利用することを狙ったものでした。1950年代にはフランク・バーネットの免疫学的監視説、すなわち「生体内では常にがん細胞が産生されており、免疫反応によってこれらが駆除されている。」が広まり、がんと免疫との関係が一層注目されるようになりました。1970年代にはOK-432などの免疫賦活剤が開発され、臨床で使用されるようになりました。その後、免疫細胞の増殖や活性化に関与するサイトカインであるIL-2の発見から養子免疫療法(LAK療法など)が開発されました。
 がん免疫療法の一つの転換点は、1990年代初頭にがん細胞で特異的に発現している「がん抗原」が発見されたことです。それまでのがん免疫療法は、必ずしもがんに特異的ではない免疫力を高め、それによってがんを治療することを狙っていましたが、1990年代に次々とがん抗原が発見され、がん細胞そのものを標的とした「特異的ながん免疫療法」が開発されるようになりました。当院が提供する多段階免疫調整によるがん治療の一環である樹状細胞局所療法も、特異的ながん免疫療法に含まれます。
 樹状細胞局所療法の核となる樹状細胞は、1973年にスタインマンによって発見され、1990年代には樹状細胞ががん抗原を取り込み、そのがん抗原に特異的なリンパ球を活性化するというスキームが明らかとなりました。このスキームを基盤として、樹状細胞局所療法は開発されました。