がんと免疫のお話し
Cancer and Immunity

膵がんの治療

(1)手術
現在、膵がんで根治が期待できる唯一の治療は切除術であることは確かです。しかし、膵がんは早期発見が困難である分、診断時に既に肝臓などに遠隔転移しているといった理由で切除術の適応となる率は低く、40%程度とされています。したがって、治療成績の向上のためには手術療法以外の化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療が必要となり、がん免疫療法を含む新規治療の開発が急がれます。

(2)化学療法
化学療法は抗がん剤を用いた治療法で、手術療法や放射線療法との違いは全身的な治療となることです。切除術の適応が無い方や、切除されたが後に再発された方、または切除後の再発を予防するために使用されるのが一般的ですが、手術前に病巣を少しでも小さくし治療効果を上げることを目的として、手術の前に使用する臨床研究も行われています。膵がんに対する標準的な抗がん剤はゲムシタビンです。米国で開発された分子標的薬であるエルロチニブとゲムシタビンの併用療法が日本でも承認となりましたが、副作用として間質性肺炎などが知られており、使用時における安全性を確認しながら慎重に投与されています。

(3)放射線治療
放射線治療は膵がんの局所制御に用いられることが一般的で、肝転移や腹膜播種などの遠隔転移がある場合は使用されません。遠隔転移は無いが切除するには膵がんが局所で周囲の組織へ進行している場合、すなわち「局所進行膵がん」が、保険診療における放射線治療の適応になります。放射線治療により病巣が縮小して手術可能となる場合があります。また、局所進行膵がんは膵臓周辺の神経に病巣が及ぶため、腹痛や背部痛などを伴うことが多いのが特徴ですが、放射線治療により疼痛の改善効果が見られることが期待されます。

(4)がん免疫療法
 膵がんに対する免疫療法は、欧米や日本でも開発中の段階であり、実際に患者さんに投与して効果や安全性を確かめる臨床試験や自由診療の範囲内で使用されているのが現状です。がん免疫慮法は、化学療法とは作用機序が異なるため、その効果や副作用の軽減が期待されます。当院が提供する多段階免疫調整によるがん治療もがん免疫療法のカテゴリーに含まれます。一般的ながん免疫療法の効果が限定的である主な理由として「がんの免疫逃避」が言われており、これを克服することが重要とあるといえます。がん細胞は免疫から逃避する機能を有しています。
 MHCクラスI分子と共に提示される抗原ペプチドは、細胞内タンパク質分解産物です。TAAタンパク質はプロテアソームというタンパク質分解酵素で消化された後、シャペロン分子及びトランスポーター分子介在下にてMHCクラスI分子と共に細胞表面に提示されます。がん細胞において、これらの抗原ペプチド提示に関連する分子の発現が低いことが報告されており、がん細胞における抗原提示能が抑制されている可能性があります。また、がん細胞においてはMHCクラスI分子発現が低い、制御性T細胞誘導能が高い、IL-10などの免疫抑制性サイトカイン分泌が高いなどの「免疫逃避メカニズム」が知られています。さらには、がん幹細胞においてチェックポイント阻害剤の標的分子であるPD-L1の発現が高いことが知られています。すなわち、がん幹細胞はPD-L1を発現し、免疫抑制性微小環境を作ることにより自ら免疫から逃避すると同時に、非がん幹細胞を免疫から保護している可能性も考えらえれます。そのような環境であるものの、がん幹細胞は、がん幹細胞抗原という特異な抗原分子を発現し、非がん幹細胞と比較して、免疫原性が高い。がん幹細胞特異的なCTLを誘導することができれば、がん幹細胞を有効に排除できるのみならず、がん幹細胞が作り出す免疫抑制性微小環境の解除につながることが期待され、がん免疫療法を成功させるカギとなります。
 当院が提供する樹状細胞局所療法は、がんに直接樹状細胞を投与することにより、がん幹細胞に紐づく抗原を樹状細胞に認識させようと試みています。またがんの免疫逃避に関しても、免疫チェックポイント阻害剤や、低用量の抗がん剤等を使用してがんの免疫逃避機構の阻害を試みています。

>「膵臓がんの統計」ページへ

>「膵臓がんの標準治療」ページへ

一覧はこちら