免疫チェックポイント阻害剤の概要
新しいがんの治療法として注目されている免疫チェックポイント阻害剤(ICI:Immune Checkpoint Inhibitor)。治療を検討しているのであれば、免疫チェックポイント阻害剤について正しく理解する必要があります。
■ 免疫チェックポイント阻害剤とは
人間の身体は、外部から細菌やウイルスといった異物が侵入すると免疫によってそれらを排除するようはたらきかけます。日々体内で発生しているがん細胞も免疫によって退治されているのですが、何らかの原因で免疫から逃れたがん細胞が増殖を繰り返し、体に悪影響を与える「がん」になるのです。一方、逆に免疫がはたらきすぎると病気になる場合もあります。代表的なものがアレルギーや自己免疫疾患ですが、そうならないために免疫は自らブレーキをかける機能も備えています。
近年、がん細胞はブレーキ機能を逆手にとって、免疫の攻撃から逃れるためのメカニズムを有していることがわかってきました。免疫細胞には「免疫チェックポイント」という、過剰な反応にブレーキをかける指令を受けるためのタンパク質(受容体)が存在します。がん細胞は免疫チェックポイントに自らが持つタンパク質を結合させ、「ブレーキをかけろ」と偽のシグナルを送ることで、免疫細胞の攻撃を逃れるのです。
そこで、がん細胞を免疫チェックポイントに結合させなければ、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなる可能性が出てきました。その考えをもとに開発されたのが「免疫チェックポイント阻害剤」です。
・「ニボルマブ」や「イピリムマブ」の特徴
免疫チェックポイント阻害剤としては「ニボルマブ」や「イピリムマブ」などが挙げられます。それぞれPD-1やCTLA-4などの免疫チェックポイントとして働くタンパク質に作用し、がん細胞によって免疫にかかったブレーキを解除します。
- ニボルマブ(PD-1阻害薬)
ニボルマブは免疫細胞に存在するPD-1に結合し、がん細胞によって免疫機能にブレーキがかかることを防ぐ薬です。活性化したT細胞の表面に現れる免疫チェックポイント・PD-1とがん細胞が結合するのを阻害します。
ニボルマブは、以下のがんに効果が認められています。
― 根治切除不能な悪性黒色腫
― 切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
― 根治切除不能または転移性の腎細胞がん
― 再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫
― 再発または遠隔転移を有する頭頚部がん
― がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃がん、等
- イピリムマブ(CTLA-4阻害薬)
イピリムマブは免疫チェックポイントとして機能するタンパク質のうち、CTLA-4にはたらきかける薬です。免疫細胞のはたらきにブレーキをかけるCTLA-4に結合し、異物への攻撃を正常に行うようにはたらきかけます。
イピリムマブは以下のがんに効果が認められています。
― 根治切除不能な悪性黒色腫、 等
■ 最新の免疫チェックポイント阻害剤に関係するニュース
現在(2020年1月)、国内における免疫チェックポイント阻害剤は、主に抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体の3種類であり、販売中の薬剤で適応拡大に向けた臨床試験が実施されています。
免疫チェックポイント阻害剤の話題のひとつとして、国立がん研究センターと大阪市立大学で実施されている職業関連性胆道がんを対象とした臨床試験があります。印刷事業などで使用する化学物質が原因で起こる職業関連性胆道がんは、一般的な胆道がんよりも遺伝子変異が多く、免疫チェックポイントPD-L1の発現が多く見られることが特徴です。海外の臨床試験では免疫チェックポイント阻害剤の高い有効性が認められていることから、国内の臨床試験では切除不能または再発した職業関連性胆道がんの患者を対象に、ニボルマブの有効性と安全性を検討することを目的として臨床試験が行われています。