がんと免疫のお話し
Cancer and Immunity

分子標的薬の種類とそのメカニズム

 分子標的薬はがん細胞の増殖や周辺組織への浸潤、そして転移を促すタンパク質を標的として作用します。その結果、がん細胞の増殖を抑制して進行を阻害することで、原発腫瘍の増殖だけではなく転移を抑制する効果もあります。分子標的薬の種類によって細かいメカニズムは変わってきます。
・細胞の増殖を抑えるEGFR阻害薬
 細胞に存在するEGFR(上皮成長因子受容体)はEGF(上皮成長因子)と結合して細胞の増殖を促します。正常な状態であれば問題はないのですが、遺伝子異常でがんが発症すると、EGFRはEGFと結合しなくても細胞を増殖させるスイッチが入り続け、結果としてがん細胞が無制限に増殖することになります。
EGFR阻害薬はそのスイッチを止め、がん細胞の増殖を抑える分子標的薬です。EGFR阻害薬のひとつにゲフィチニブがあり、手術不能または再発の非小細胞肺がんに適応があります。また、同じくEGFR阻害薬のエルロチニブには前述の非小細胞肺がんに加えて、手術不能な膵臓がんにも適応があります。
・遺伝子の活性化を抑えるALK阻害薬
 ALK遺伝子とEML4遺伝子が、何らかの原因で本来とは逆方向に結合した異常遺伝子をALK融合遺伝子と言います。ALK融合遺伝子は、強力ながん遺伝子です。このALK融合遺伝子もがん細胞を増殖させるスイッチを常にオン状態にしてしまいます。ALK阻害薬はそのALK融合遺伝子の活性化を抑え、がん細胞の増殖を阻止します。ALK阻害薬のひとつにクリゾチニブがあり、手術不能または再発の非小細胞肺がんに適応があります。
・細胞の増殖を抑え免疫細胞の目印になるHER2阻害薬
 HER2という細胞の増殖に関与するタンパク質がありますが、これが何らかの異常で過剰な働きをすることで細胞の増殖を制御できなくなり、がんとなります。HER2阻害薬はそれに結合することでがん細胞の増殖を抑えるだけではなく、がんの目印となって免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくするという作用も併せ持っています。HER2阻害薬のひとつにトラスツズマブがあり、乳がんや手術不能または再発の胃がんに適応があります。
・増殖因子を抑制する血管新生阻害薬
 がん細胞が産生する増殖因子は血管内皮細胞などを増殖させ、栄養を取り込むための血管を新たにつくり出します。血管新生阻害薬はこのような増殖因子の活性化を抑制し、血管新生を阻害する作用があります。前述のベバシズマブやレンバチニブも血管新生阻害薬の一種です。
・シグナルの伝達をストップするmTOR阻害薬
 mTORは細胞内でのシグナル伝達に関与するタンパク質の一種です。mTOR阻害薬は、タンパク質に作用することでシグナル伝達経路にストップをかけ、がん細胞の増殖を阻止します。mTOR阻害薬のひとつにテムシロリムスがあり、手術不能または転移性の腎細胞がんに適応があります。
・免疫を活性化させる膜状分化抗原標的薬
 膜状分化抗原標的薬は、がん細胞に発現している特定のタンパク質に結合します。その結果、ナチュラルキラー細胞などの免疫細胞を活性化させ、がん細胞への攻撃力を高めます。膜状分化抗原標的薬のひとつにリツキシマブがあり、B細胞性非ホジキンリンパ腫やウェゲナー肉芽腫などに適応があります。
・抗がん剤などとの違い
 従来からある抗がん剤は、細胞分裂のプロセスに直接作用してがん細胞を死滅させることを目的としています。しかし、がん細胞だけではなく正常な細胞にもダメージを与えてしまうため、場合によっては重篤な副作用が出現することが難点とされてきました。分子標的薬はがん細胞に発現しているタンパク質などを標的とするため、正常な細胞への影響は少ないとされています。副作用はゼロではありませんが、抗がん剤に比べると重篤な症状が現れる可能性は低いとされています。

>「分子標的薬に関する最新のニュース」ページへ

>「分子標的薬とはなにか?」ページへ

一覧はこちら