がんと免疫のお話し
Cancer and Immunity

標準がん治療とは?

■ 標準がん治療とは?
がんの標準治療とは、基本的に「手術」「抗がん剤治療(化学療法)」「放射線治療」のことを指し、がんの「三大治療」とも呼ばれています。

がんと診断されて治療が始まる場合、一般的に医師は標準治療をすすめることが多いでしょう。標準治療は科学的な根拠に基づいて国内で承認され、現在行うことができる最良の治療であると証明されています。「標準」と付いているため、平均並みの治療と誤解される患者さんもいらっしゃいますが、そうではありません。

実際の治療にあたっては、がんの種類や進行の程度に合わせて、3つの標準治療から複数を組み合わせて行われることもあります。

・ 手術
標準治療のひとつである手術は、外科的な手法でがんを切除する治療です。日本では、手術ががん治療の中心とされています。早期がんでは手術がもっとも効果的な治療といわれているためです。たとえば、転移のない早期の胃がんの場合、手術によって5年生存率が90パーセント近くになっているというデータもあります。

一般的にはがんの診断を受けてから治療方針を検討し、その上で適応があると判断された場合に手術を選択することになります。

手術は全身麻酔で行うことがほとんどですので、入院前に心肺機能や血液の検査を行ない、間違いなく手術の適応があるか、そして身体が手術の負担に耐えられるかどうかを詳しく調べます。万が一そこで何らかの問題が見つかった場合、手術そのものができなくなる可能性もあります。

 ― 手術のメリット
手術にあたっては、がんの取り残しがないように、がんの周辺組織やリンパ節も含めて切除することが一般的です。現在では、ある程度進行しているがんでも切除が可能であれば積極的に手術が行われます。がんのかたまりが手術で一度に取り除けること、転移がなければ完治の可能性が高いことが手術のメリットといえます。

また、がんの切除ではなく症状の緩和を目的として手術を行う場合もあります。たとえば、消化管のがんにより食べ物が通らなくなってしまったり、がんから出血したりといった緊急の症状を改善するために行われる手術です。

 ― 手術のデメリット
がんに対する手術は広く行われていますが、デメリットもあります。身体にメスを入れるということは大きな負担を伴い、手術の傷や体力の回復にも時間がかかることも多いでしょう。しかし、最近では内視鏡や腹腔鏡などを用いた身体に負担の少ないさまざまな手術法が開発され実用化されています。

身体への負担はもちろん、がんを切除することによって臓器や身体の機能が失われる場合もあります。代表的なもののひとつが人工肛門で、これは大腸がんなどの手術で排泄機能が失われる例です。筋肉や骨のがんで四肢を切断しなければならないというのも、手術による身体機能の喪失といえるでしょう。

さらに、目に見えないようなごく小さな転移を手術で取り除くことはできません。病状が進行している場合や、そもそも手術ができない部位にできてしまった場合も同様です。進行がんに対しては、手術療法と併せて放射線治療や抗がん剤治療を実施することもあります。

・ 抗がん剤治療(化学療法)
標準治療のひとつである抗がん剤治療は、化学療法とも呼ばれます。抗がん剤治療は、進行がんで手術が不可能な場合は単独で行われますが、それ以外の場合は手術と併せて行われることが多い治療法です。

また、がん細胞は血液やリンパの流れに乗って、他の臓器に転移することがあります。これを防ぐために抗がん剤を投与してがん細胞を攻撃します。

 ― 近年注目の分子標的治療薬
近年はがん細胞だけに作用する分子標的治療薬の開発が進み、がん治療の現場で広く利用されるようになりました。分子標的治療薬は従来の抗がん剤とは違い、増殖や転移をしている特定のがん細胞を分子レベルで攻撃し、正常な細胞にはダメージを与えません。そのため有用ながん治療の手段として注目されており、他の抗がん剤治療や放射線治療と組み合わせた治療も行われています。

このほか、乳がんや子宮がん、前立腺がん、甲状腺がんなど、ホルモンが影響するがんに対して行われる「ホルモン療法」があります。内分泌療法とも呼ばれ、特定のホルモンの分泌や作用を抑制することでがん細胞の活動を抑え、転移や再発の予防にも効果があります。

 ― 抗がん剤治療の副作用
抗がん剤治療といえば副作用というイメージがありますが、最近では副作用を軽減する治療も進歩してきました。そのため、副作用で抗がん剤治療を中止することも少なくなり、外来で治療が受けられるのも一般的になってきています。

とはいえ、その副作用が抗がん剤治療最大のデメリットであることに変わりはありません。代表的な副作用として吐き気や倦怠感、脱毛などがよく知られていますが、もっとも重い副作用は臓器に悪影響が生じることです。血液をつくる造血幹細胞の機能が低下する「骨髄抑制」の出現には特に注意しなければなりません。

抗がん剤治療の副作用の中には回復しにくい症状があります。抗がん剤治療は繰り返し実施するので、同じように副作用も繰り返すことになり、患者さんにとっては非常に負担が大きくなってしまうのがデメリットです。

このほか、がんの種類によっては抗がん剤の効果が現れにくいケースもあります。また、高額な薬剤を長期間にわたって使用しなければならず経済的負担がかかるのも、抗がん剤治療のデメリットといえるでしょう。

・ 放射線治療
放射線治療はその名の通り、がんに放射線を照射することによってがん細胞の増殖を抑える治療法です。具体的には、放射線を照射することでがん細胞内の遺伝子(DNA)にダメージを与え、がん細胞を死滅させるという仕組みです。

 ― 根治治療と緩和治療に分けられる
標準治療として行われる放射線治療は、がんの治癒を目指す根治治療と、症状の軽減を目指す緩和治療に大別されます。照射方法は主に2つで、身体の外から照射する外部照射と、放射線を発生する小さなカプセル(線源)を体内に入れて照射する密封小線源治療があります。

近年は治療前の検査や照射方法の進歩によって、がんの大きさや位置を正確に把握し集中的に照射することが可能となったため、治療の効果は以前よりも向上しています。

 ― 照射される放射線の種類
放射線治療に使用される放射線として一般的なものは、X線や電子線、ガンマ線です。陽子線治療や重粒子線(炭素イオン線)治療も実用化が進んでいますが、これらは先進医療とされ標準治療とは考えられていません。

患者さんの状態によっては放射線治療のみを行う場合もありますが、他の治療法と組み合わせて行うこともあります。たとえば、早期の喉頭がんや前立腺がんは放射線治療のみを行うことも多いのですが、乳がんでは手術療法や抗がん剤治療を組み合わせることが一般的です。

 ― 放射線治療の副作用
放射線治療には副作用があります。皮膚が赤くなったりヒリヒリしたりする症状です。その多くが照射部位の皮膚や粘膜に起こりますが、たとえば喉頭がんの放射線治療ではのどの粘膜に痛みが出現し、食事を摂るときに工夫が必要になる場合があります。こうした副作用は治療後2~3週間目から現れることが多く、放射線を照射する部位によっても症状の程度は変わります。

また、放射線治療の効果はすぐに現れないことがあり、十分な効果が得られるまで数カ月を要することも。長期にわたる治療をする、という認識が必要です。

・ その他の代替治療法
代替治療法とは、一般的には通常の治療の領域外と考えられる治療ですが、国内では標準治療以外にも公的医療保険が適用されるがんの治療法があります。

 ― 温熱療法
代替医療のひとつめは温熱療法です。温熱療法はがん細胞が熱に弱いという性質を利用した治療法で、
電磁波を用いて加温します。がんそのものに集中して熱を上げたり、全身的に体温を上げたりする方法があり、血行が良くなることで免疫力の向上が期待できるという考え方のもと行われる治療です。対象となるのは再発乳がんや悪性黒色腫、子宮頸がん、直腸がん、膀胱がんなどで、標準治療と併せて行われます。

 ― BRM(生体応答調節)療法
2つめは、BRM(Biological Response Modifiers:生体応答調節)療法です。免疫賦活療法または免疫機能補助療法ともいわれ、免疫を強化してがんに対する抵抗力を高める薬剤を投与する方法です。新たながん治療の選択肢として大きな期待が寄せられています。
免疫療法には、さまざまな種類があります。治療によって公的な保険の対象になる治療とそうでないものがあるため、費用面の負担がどれほどかを事前に確認してから取り入れるようにしましょう。

 ― 漢方薬や理学療法など
補完的な意味を持つ代替治療法の代表格が漢方薬です。主に副作用対策となりますが、中には身体の免疫力を高める効果が期待できる薬もあるとされています。

その他、乳がんや子宮がん、前立腺がんなどの手術や放射線治療に伴う進行性のむくみ(リンパ浮腫)に対して、スキンケアや圧迫療法、リンパマッサージや運動療法を組み合わせた複合的な理学療法が行われる場合もあります。
代替医療は医師と相談しながらすすめること
公的医療保険の対象となる治療法と、対象にならない代替治療法は数多く存在します。標準治療の効果があまり得られなかったと、代替医療に賭ける患者さんは少なくありません。しかし、安易な代替医療の選択は、抗がん剤治療などの標準治療と相互作用を起こし、標準治療の有用性を損なう可能性もあります。代替治療法を選択しようとする場合は、医師も交えた慎重な検討が必要です。

 ― 緩和ケアの重要性
がん治療においては緩和ケアの重要性も増しています。緩和ケアと聞くと、ホスピスのように末期がんのイメージが強いかもしれませんが、現在ではがん治療の辛さを軽減させるために治療の初期から取り入れられることも多くなっています。標準治療の補完的な意味を持つ代替治療法ともいえるでしょう。

緩和ケアという観点では、患者さんに対する心のケアや社会的支援も忘れてはなりません。医師をはじめ、看護師や薬剤師、検査技師、栄養士、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなどさまざまな職種による「チーム医療」は、がん治療には欠かせない体制です。このようなチームで患者さんを精神面から支える医療も、広義では補完代替医療の範疇に含まれるといっていいでしょう。

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