腸管免疫
腸管には、からだ全体の免疫細胞の50%以上が存在する。食物を消化吸収するという性質上、食物に紛れた細菌やウィルスの体内侵入を阻止しなければならない。同時に、食物や平和共存する腸内細菌にむやみに反応しないことも重要になる。全身免疫は、異物は有害なものとして排除することが基本だが、腸管免疫は、有害な異物は排除するが、無害な異物は見て見ぬふりをするという、きわめて高度な対応を実現させている。そのだけに腸管免疫は、まだ分かっていないことが多い。
【小腸の免疫細胞】
小腸の内側には絨毛がびっしり生えている。絨毛の最外層には一層の粘膜上皮細胞が並び、腸管内側の表面に微絨毛がすきまなく生えている。絨毛には毛細血管とリンパ管が分布していて、毛細血管からはアミノ酸やブドウ糖が、リンパ管からは脂質が吸収される。
粘膜上皮細胞のあいだには、多くのT細胞や樹状細胞が挟まれる形で分布している。また、粘膜上皮細胞の並びの中には、下部にポケットを持つM細胞という特殊な細胞がときおり見られ、M細胞がある辺りは絨毛が途切れ、台地状になっている。その台地の下にパイエル板というリンパ組織が存在する。
バイエル板には、樹状細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞がいて、樹状細胞などはM細胞のポケット部にも入り込んでいる。パイエル板は1677年スイス人医師パイエルが解剖学的に発見し、免疫に関係することが分かったのは、1970年代に入ってからだ。ほかに小腸のリンパ組織としては、パイエル板同様に小腸に点在する孤立リンパ小節や、腸間膜リンパ節がある。
一方、絨毛の最外層にならぶ粘膜上皮細胞の下の粘膜固有層には、免疫応答の結果としてプラズマ細胞(抗体産生細胞)が並び、粘膜上皮を通して腸管内に向けて抗体を放出している。粘膜固有層には、T細胞、樹状細胞、マクロファージ、マスト細胞なども分布する。腸管の粘膜上皮層と粘膜固有層に存在する免疫細胞の数は、ほかのどの場所を比べても圧倒的に多い。